COLUMN

コラム

コンピューターは子どもが使うものこそカッコよくあるべき
子ども向けコンピューター「Kano PC」
【遠藤諭の子どもプログラミング道】
遠藤 諭

2020/08/14

遠藤 諭

「Kano PC」の発表会があるというので出かけてきました。プログラミング教育についてご興味のある方なら、名前はご存じかと思う英国のベンチャーKano社。Raspberry Pi搭載のキット「Kano」は、私のまわりで何人もの人が英国から取り寄せていました。

子どもがはじめて出会うコンピューター

『TIME』のベストインベンションアワードを2年連続で受賞、2019年には『Fast Company』がアップルに次ぐ革新的なコンシューマ向けIT企業としました。「Kano PC」は、そのKanoによる子ども向けの本格的なコンピューターというので気になります。

子ども向けのコンピューター、子どもがはじめて出会うコンピューターはどんなものがよいかはなかなか難しいテーマです。私が編集にたずさわっていた『月刊アスキー』では、1980年代から「教室にやってきたコンピュータ」という連載をやっていました。その頃、すでに驚くような試みがたくさん行われていました。たとえば《幼稚園の卒園集をMacintosh+ハイパーカードで作りました》というのがありました。

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ハイパーカード(HyperCard)は、紙芝居のようなカードにボタンを配置してやれば、誰でもちょっとしたコンテンツが作れる素晴らしいソフトウェアです。アップルがハイパーカードをやめてしまったので(本当になぜでしょう?)卒園集は読めないかもしれないですが、子どものコンピューターとの出会いとしては最高に近いものだったと思います。

プログラムのコードを書くこともさることながら、紙芝居式でどんなふうにみんなを驚かすことができるか? そこに知恵を絞ることもコンピューターを使う重要なヒントになるからです。

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一方、「IchigoJam」という、日本のjig.jpという会社が作った1500円から買えるシングルボードコンピューターがあります。IchigoJamの話をはじめて聞いたとき、小学生にハンダゴテを持たせてコンピューターを組み立てさせる、それをテレビにつないで動かすプログラムはBASIC(1980年代まで使われた入門向き言語)で書くと聞いてどうかなと思いました。

ところが、ワークショップにおじゃましてみると小学3~4年生が抵抗やコンデンサなどの部品を小さな基板にハンダづけしていきます。BASICに関しては、画面上の1ドット(ノミのような!)をキャラクターに見立てて縄跳びをさせるゲームなんかを作っている。最初は、講師のコードのまる写しですが、次に「1行書き換えてみましょう」となります。1ドットの動き決める数値を書き換えるわけですが、勝手にデタラメな修正をしはじめる子がいたりします。

ハードウェアを基板から組み立てて、1ドット描画のゲームもいじり倒したら、そこから先はコンピューターを《なめてかかれる》ようになるのではないでしょうか? たいした裏付けがなくても「なんでもかかっておいで」と前向きになれる。それは、《万能学習型人間》の誕生といってもよいでしょう。これも素晴らしいコンピューターとの出会いだと思います。

「カワイイ」「カッコいい」コンピューター

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そうしたものに比べると、私が発表会にでかけてきた「Kano PC」は、どちらかというと《学習用PC》と呼ばれるタイプのコンピューターです。

この分野はいま、政府のGIGAスクール構想における《生徒1人に1台のPC》の計画が、新型コロナの影響で大幅に早まったことで大いに盛り上がっています。政府の補助金は、PCに関して1人最大4.5万円なので、グーグルが提唱する「Chromebook」(クラウド中心に使うシンプルなコンピューター)がにわかに注目されました。学校市場で実績のある「Windows 10」のマイクロソフトも黙っているはずはありません。アップルの「iPad」もあります。

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ところが、この《学習用PC》という名前がそれをいかにもまじめくさったものに感じさせてしまいます。実際は、子どもが使えばそんな世界にはならないと思いますが、グレーのスーツを着た大人が似合うようなコンピューターやタブレットの世界に近いように見えます。コンピューターは《ただの箱》で、ソフトウェアにこそ価値があるというのは1つの事実ではあるのですが。

そんな状況の中で、いささか出遅れた感じで登場してきたのが「Kano PC」というわけです。国内代理店の株式会社リンクスインターナショナルは、塾や家庭をまずはターゲットにするとのこと。それにしても、このKanoが作りだす世界、英国や米国のメディア、専門家たちに高く評価されるのはなぜなのか?

Kano PCに関していえば、まずはそのカラーリングやケースの裏側がシースルーになった本体デザインがまず目にとまります。誰もが、必ずといっていいほど「カワイイ」とか「カッコいい」と反応を示します。だからといって、子ども向けの製品のベタな配色やオモチャ然とした丸みを帯びたデザインといったわけではありません。むしろ落ち着いた配色のなかにいくつかのアクセントがあるといった感じです。

Hello World

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箱を開けると、背面カバーが外れた状態の本体といくつかのパーツが出てきます。本体内部に、巨大なモバイルバッテリのような電池(真っ赤な配色)、それとスピーカー(青い配色)を配置してケーブル接続するようになっています。ほぼ《儀式》のようなものですが、子どもが自分の手でこれをやることになります(バッテリとスピーカーは劣化・故障しやすい部分なので交換可能にしているとのこと)。

最初に電源を入れたときの体験もなかなか楽しいものがあります。途中で「print Hello World」という文字列を入力させる画面が出てくるのです。さらに、その文字の色を変えたり、自分なりに違った指示をしてみようと促してきたりします。これって、コンピューターが子どもたちという自分たちの《ユーザー》をきちんとお迎えしてくれている感じでしょう。「デジタルの世界へようこそ!」といわんばかりです。

Kano PCには標準で3つのオリジナルのソフトが入っています。「How Computers Work」は、コンピューターの基本的なしくみや原理が学べるソフト。「Kano Code」はちょっとしたゲームまで作れるビジュアルプログラミング環境。「Make Art」はイラストやデザインをコーディングするプログラミング環境です。

興味深かったのは、英国からオンラインで参加していた創業者Alex Klein氏が「子どもが使うということで強度はどの程度あるのか?」という質問が出たときでした。Alex氏は「1メートルの落下試験を行っている」と答えたのですが、「PCが壊れることもまた学びなのだ」というのがKanoの考え方だと聞いていたからです。誤解を避けるためそこまで言わなかったのか? もちろん壊れないほうがよいはずなのですが、「壊れないか?」は大人が面倒がないための都合のようにも思えてきます。

たぶん、Kanoを支持する人たち(その中には業界だけでなく有名スポーツ選手やアーチストなどもいるらしい)や『WIRED』などの何度もKanoを記事にしているメディアは、Kanoのこういう部分を見ているのかもしれません。

それでは、なにかもの凄く特別なものを作っているのかというとまったくそんなことはありません。KanoもRaspberry Piのキットだったけわだし、Kano PCもよく見るとマイクロソフトの2 in 1のWindows 10ノートPCを思わせるものがあります(本体は部分は背面がシースルーで分厚いのであまり似ていませんが、キーボードはSurfaceシリーズによく似ています)。

Kano PCを特別たらしめているもの

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コンピューターとしての性能は、プログラミングやワープロやZoomやちょっとしたオーサリングには困りません。Windows 10 Proの搭載は学校でのネットワーク環境でのメンテナンス性を想定したものでしょう。価格を低く抑えていることも特徴だとしており、オープン価格ながらツクモで予約販売が始まっており、税抜き39,800円となっています。

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Kano PCを特別たらしめているのは「キミたちのためにコンピューターを作ったよ」という事実であり、メッセージの込められたハードウェア的なパッケージングであり、ソフトウェアをふくめたトータルなデザインなのかもしれません。

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コンピューターは子どもが使うものこそカッコよくあるべき子ども向けコンピューター「Kano PC」【遠藤諭の子どもプログラミング道】
遠藤 諭

2020/08/14

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